LOVEPAIN⑥
私は一体、何を考えているのだろうか?


そんな馬鹿な事、と思うのに。


私はその睡眠薬であるハルシオンのPTP包装を破き一粒取り出すと、
ミネラルウォーターと一緒にそれを成瀬に渡した。


成瀬は薬が裸になってる事も不審がらず、
サンキュー、とそれを口に入れた。


そして、ミネラルウォーターでそれを流し込んだ。


成瀬は枕元にミネラルウォーターを置くと、ジャケットを床に脱ぎ捨て、ネクタイを緩めて再びベッドに寝転んだ。


果たして、薬はどれくらいで効くのだろうか?


いつまでも私がこの部屋に居るのも不自然だし。


「あ、私、この番組見てたんでこれ終わったら出て行きますね」


テレビが付けっぱしだった事を思い出して、
閃いた。


自然に、ベッドの端に腰を下ろした。


「ああ…。秋原慎太郎出てるもんな」


え、出てるの?


私はテレビの画面に目を向けた。


そこには確かに秋原慎太郎の姿があり、
レコーディングスタジオのような場所で、自身の過去のアルバムについて語っている。


それはいつものおちゃらけた感じではなく、至極真面目に話している。


私は本当にこの人に抱かれたんだ…。


こうやってテレビの画面を通して見ると、
本当に別の世界の人。


その次元も違う。


「秋原の事は悪かった…」


そう聞こえて、私は成瀬に目を向けた。


成瀬は以前目を閉じたままだけど。


「秋原も、本気でお前とヤろうと思ってると思わなかった。
いや、全く思わなかった訳ではないけど」


その言葉で、やはり成瀬は分かっていて私を秋原慎太郎に差し出したのだと知らされた。


「秋原さんは、成瀬さんが思っているような人ではないですよ。
とても素敵な人でした。
だから、気にしないでください」


まだ眠った訳ではないのだろうけど、
成瀬は私のその言葉に返事を返す事はなかった。

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