LOVEPAIN⑥


「僕は、このランチセットにします。
鈴木さんは?」


「私は、オムライス」


そう言えば、先日も大阪でここと同じファミレスのチェーン店で、
オムライスを食べた事を思い出した。


榊原先生と、メンタルクリニックから歩いてすぐのファミレスへとやって来た。


自身の経営する病院近くで白昼堂々と私と食事するくらいなので、
本当に私に対してやましい気持ちなんて微塵もないのだろう。


榊原先生は、近くのウェイトレスに自分のランチセットと私のそのオムライスの注文を告げると、
私の方を向いた。


その表情が真剣で、私は姿勢を正した。


「先程言ったように、海宝さんの事なのですが」


「はい。ナツキがどうしたのですか?」


榊原先生の表情が重たくて、この先の話を聞く事が怖くなって来る。


「最近、海宝さんもうちのクリニックに通院されているんですよ」


え、それって…。


本当は、ナツキは病気が治って無かったの?


いや、榊原先生の言い方だと、
最近、また、って事?


「本来、医者がこのように患者の事を他人に話す事は、御法度なのは分かっています。
ましてや、僕は精神科医」


「ナツキは…その…。
どんな状態なのですか?」


私と会っている時は、そう言った症状を見掛けてはいないけど。


「安心してください。
症状としては、不眠くらいでしょうか。
出してる薬も、鈴木さんにも出している睡眠薬だけです。
今はまだ過呼吸とかもなく。
多分、過去の経験から、そうなる前にこちらに来られたのだと思います。
いや、きっと、彼は誰かに話を聞いて欲しかっただけなのかもしれませんね」


「そうですか…」


榊原先生が私にそれを話すと言う事は…。


私はこの人の前で、散々ナツキを好きではないと話した。



ナツキがこの榊原先生に何を話しているのか…。


私の事だろうな…。


流石に、榊原先生もその内容迄は私に話さないだろう。


榊原先生は、茶色の封筒を持っていた鞄から取り出すと、
それを私に差し出した。


< 323 / 501 >

この作品をシェア

pagetop