LOVEPAIN⑥
料理が殆ど無くなった頃、
私達の居る個室の扉が開いた。


そして、一人の中年の男性が現れた。


その人はスーツ姿で、どう見ても店員さんには見えない。


「遅い、浩二(こうじ)さん」


その人は、なっちゃんの知り合いみたいで。


その人を見る成瀬の顔を見ると、
怒っているわけではないけど、
その表情が固い。


「広子ちゃん、遥から聞いてる?
私、この子が高校卒業してすぐに、この人と結婚したの」


「そういえば…。
以前、そんな話を聞いた事があります」


‘ーー俺が高校卒業してすぐに、母親は結婚したんだ。

それと同時に、俺は家を出た。

その結婚相手は冴えない奴なんだけど、
すげーいいおっさんで、
今はなっちゃん幸せそうに暮らしてるーー’


「遥、この人と上手く行かないのか、初めは三人で暮らしていたんだけど、すぐに家を出てね。
そのまま今に至るんだけど、こんな機会ならば、
遥も浩二さんと一度ちゃんと話してくれるんじゃないかって」


「遥君。
急に来てごめんね。
遥君に僕があまり好かれてない事は分かっていたんだけど」


その人は、何処か頼りなさそうに見えるけど、
この人を包む空気から、きっととてもいい人なのだと思う。



それにしても、義父と上手く行かなくて、成瀬は家を出たんだ。


成瀬は、大きくため息を吐いた。


「井上(いのうえ)さんを避けていたのは、ただのヤキモチです。
なっちゃんを取られたみたいで。
昔、あの頃は俺も若くて、その感情が自分でコントロール出来なくて、
井上さんにはけっこう突っかかりましたけど。

けど、今は、なっちゃんと結婚してくれてありがとうって思ってますよ」


その成瀬の言葉を聞いて、なっちゃんは泣いていた。


その涙に釣られたのか、私もまた涙を流していた。


その井上さんがなっちゃんの涙を拭っていて、
成瀬は私の頭を撫でる。


「お前、今日泣きすぎだろ?」


そう呆れたように、笑っている。


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