LOVEPAIN⑥
「俺より、篤君の何がそんなに良かったの?」


そう訊かれ、理由は一杯あるのかもしれないけど、
ハッキリと言葉に出来る程分かるのは1つだけ。


「篤さんは、私に手を出さないから、かな。
何度も部屋に二人っきりになっても、全然」


「あー、なるほど。
それは惚れるね」


ナツキはそう言って笑うと、その笑みを顔から消した。


「俺は広子に触れてないと、不安だった。
お前の気持ちなんか、考える余裕も無くて」


そう言って、その言葉を否定するように、ナツキは首を横に振った。


「初めは、お前の事を軽く見てた。
だから…。
ま、もう今さらそんな事どうでもいいか。
もうこれ以上話す事ないし、さっさと帰って。
俺、そろそろ用意しないといけないし」

「分かった…」


ナツキにそう促されたからではなく、
これ以上私は此処に居ない方がいいと感じた。


今日、私が此処に来る迄、それなりにナツキは私に対しての未練みたいな物を経ち切れていたと思う。


私がこれ以上此処に居たら、
それを無駄にしてしまう。


「さよなら」


私はそう言って、ナツキの部屋を出た。


本当は、最近のナツキの様子等色々気になっていて、
色々と訊きたい事も有った。


以前、榊原先生から聞いたように、
ナツキがまた通院している事や、
モモさんやマリンさんが言っていたように、
あまりホストの仕事に身が入っていない事とか。


「指輪と部屋の鍵、返し忘れたな」


ナツキのマンションから出てから、
それに気付いたけど、
どちらも、また戻って返そうという気が起きなかった。


もう、返せる機会は無いだろうな。


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