またね、お姫様
母とあたしは、少年を家の中に入れた。
少年は、
やがて、口を開いた。
「…レメックと、友達だった」
「…レメックと?」
あたしの胸は、高鳴った。
ようやく、レメックが……!!
胸の中に、希望が広がった…
次の瞬間。
「彼は……戻ってこない」
少年は、語りはじめた。
あれから、レメックと彼の家族は、
ゲットーというユダヤ人居住区に住まわされたのだそうだ。
そこで、少年は、レメックと出会ったという。
「レメックは…本当にいい奴だった。
すごく優しくて……誰のことも、ナチスの連中のことさえ、恨んだりしなかった。
両親が死んでからは、ずっと妹の面倒を見ていた」
少年は、目に涙を浮かべながら話した。
レメックのお父さんは、気まぐれなナチスに銃殺された。
その後、間もなく、レメックのお母さんも伝染病で亡くなった。
そして、
レメックは小さな妹と、二人きりになってしまった。
彼は、口癖のように、「妹には僕しかいない」と言っていた。
「ナチスは、ユダヤ人をゲットーから収容所へ移送することを決めた。
それは、ユダヤ人を絶滅させるための取り決めだった。
けど、俺たちは、騙されていて詳しいことは何も知らなかった。
ただ労働のための移送だと思っていたんだ」
しかし、事実はそうではなかった。
「レメックと妹…俺たちは、
大勢のユダヤ人たちと一緒に貨物列車に乗せられて、
運ばれていった――…絶滅収容所へ。
水も食べ物もトイレもない状態で列車に揺られ、
到着すると…すぐに選別が行われた。
その選別の意味が、初めはよく分からなかった。
だけど、後で分かった。
その選別は、働ける者と、そうでない者を分けるものだったんだ……―」
そして―――
「レメックと俺は、一緒に同じ方向へ選ばれた。
だけど、レメックの妹は、別の方向に選ばれた。
レメックは、「妹がいるあっちへ行く」と言った。
俺は、もちろん止めた。
でも、レメックは行ってしまった。
俺は、その時、知らなかった……
レメックと妹がいた列が、ガス室へ行く方だったなんて」
少年は、涙を流しながら、
ほとんど独り言のように話した。
目の前で、苦しい光景を見ているかのような様子だ。
「絶滅収容所では、大半の人間がガス室へ送られ、毒ガスで殺された。
……レメックと妹も、そのうちの二人だった」
少年は、嗚咽した。
―――時が、止まった。
………レメックが、殺された?
………毒ガスで、殺された?
少年は、ある物を、こちらに差し出した。
「これは…
ゲットーで、レメックが書いた手紙だ。
収容所へ旅立つ前、ゲットーの地中に埋めたものを、掘り起こして取ってきたんだ…。
レメックに、もしも自分が帰らなかったら、
代わりに渡してほしいと言われていた……君に」
差し出されたのは、土で汚れた瓶。
この中に、レメックからの手紙が入っているというのだろうか…。