またね、お姫様
少年は、頬に涙の跡を残したまま、去っていった。
母が、小さく声を掛けてきた。
「……アネタ」
母は、青白い顔をして、
そっと、あたしのことを抱きしめた。
その手は、微かに震えていて―――
「なんて、ひどい……
わたしは…罰されるべきだわ」
そう、呟くように言った。
母も、
レメックたち家族が帰ってくることを、待っていた。
父の分まで、
彼らに、謝るために…。
けれど、もう、何も叶わない。
どんなに願っても、
彼らが帰ってくることはない。
あたしの理想の家族は、消えてしまった。
レメックとは、もう、会えない。
二度と、会えない。
目から、どっと涙が溢れ出てきた。
あたしが、これまで信じてきた希望は、
全て無駄だったというのだろうか。
割れかけては、
なんとか持ちこたえ、
ギリギリのところにあった心が、
ついに壊れた。
あたしの心は、
ついに、死んでしまった―――。
『なんだか…お姫様みたいだ』
………レメック?
お願い、戻ってきて。
あたしを、置いていかないで…。
『僕は……アネタのこと、好きなんだ』
あたしだって、好きだよ……レメック。
『アネタ……また、会おう』
レメック…
レメック…
『アネタ』
レメックの声で、目を開ける。
窓から、光が射し込んでいる。
あれから、眠っていたみたいだ。
辺りを見回しても、誰もいない。
ふと、手元に、汚れた瓶があるのが目に入った。
…レメックの書いた手紙。
そう、少年は言っていた。
一体……どんなことが書かれているんだろう?
自然と、手だけが動いた。
あたしは、
瓶の蓋を開け、
中から、紙を取り出した。
紙は、ボロボロだけれど、丁寧に折り畳まれていて、
持っている手が震えた。
レメックは、
本当に、
あたしのために、手紙なんか残してくれたんだろうか。
レメックは、
どんなことを考え、
どんなことを思っていたのだろう…。
そして、
あたしは、とうとう、
折り畳まれた紙を、開けた。
そこに並んでいたのは、
紛れもなく、レメックの字だった―――。