またね、お姫様
『僕のお姫様へ
…ちょっと、気持ち悪いかな?
まあ、いいか…。
アネタ、元気にしてる?
この手紙をもしも君が読んでくれていたら、
きっと、もう戦争は終わったということなんだろう。
君や、君のお父さんやお母さんが元気でいられていることを願う。
アネタ、僕は元気だよ。だから、安心してほしい。
ただ、心にぽっかり穴が開いたような気分で毎日を過ごしている。
君に会いたくて、仕方ないよ。
君に会えなくて、本当に寂しい。
君と別れてから、あの後、
僕ら家族は、このゲットーに連れてこられた。
ゲットーは、ユダヤ人を隔離するための居住区なんだ。
今も、僕はゲットーにいる。
だけど、もうすぐ移送があるらしくて、また別の場所へ移されてしまうんだ。
だから、その前に、こうして君に手紙を書いている。
少し怖いことを言うかもしれないけど、
次の場所では、いよいよ、どうなるか分からないんだ。
詳しいことはよく知らないけど、移送先は収容所で、
僕らユダヤ人は、絶滅させられようとしているらしい。
別れ際、君に言ったことが頭に浮かんだ。
また、会おう。そう言ったよね。
絶対に帰ってくる、って。
でも、もしかしたら、それが出来ないかもしれない…
君は、きっと、怒っちゃうよね。
そう思って、あらかじめ伝えておこうと思う。
もしも、
僕が帰ってこなかったら、
嘘つきだと罵って。
僕が帰ってこなくても、
悲しまないで。
僕は、君に笑っていてほしい。
笑顔で生きてほしいんだ。
僕も、限界まで、
笑って生きるつもりだ。
ユダヤ人として生まれ、
それ故に迫害を受けなくちゃならなかった。
けど、僕は、自分の人生が悪いものだったとは思わない。
ユダヤ人であるということは、僕の誇りだ。
そして、何より、
僕は、君と出会えてよかった。
君の隣にいられて、本当によかった。
毎日、すごく楽しかったよ。
いろいろなことを、たくさん一緒にしたよね。
どれも、全てが、かけがえのない思い出だ。
まだ、たくさん思い出を増やしたかったなぁ。
もっと、一緒にいたかったよ。
そういえば、
身長、だいぶ伸びたんだ。
たぶん、もう君よりも大きいと思う……これで、王子様にしてもらえるかな??
まあ、それはともかく…
身長が伸びたことは、ここでの生活で嬉しかったことの一つなんだよ!
だって、僕は、ずっと、
君の背を追い越すことを目標にしてきたからね。
君も、喜んでくれると嬉しいな。