0時を過ぎても解けない魔法を
「魔法使いって現実にいるのかな…」

そんな私のつぶやきに反応を示したのは私達1年が憧れる2年生、森野花恋先輩だった

「魔法使いねぇ…やっぱりいないんじゃないかしら。いきなりどうして?」

「いや、うちの部の今度の劇シンデレラのリメイク版じゃないですか」

話は遡るがうちの部活、花宮高校演劇部は高校演劇界では有名だ
肺活量を増やすトレーニングやきつい演技でバテないためのランニング、数々の童話をリメイクしたオリジナルの台本…
将来芸能界を目指す子達にとって、「花宮高校演劇部に入ってた」という肩書きは強い切り札になりうるものだった

しかし入部にするにあたって試験もあり、たくさんの子達が落とされていった

そういう私は裏方志望だったということもあり、試験無しで入部できたのだ

新1年生初めての舞台である文化祭公演、選ばれた台本は「シンデレラ」だった

リメイクされた台本には、高校生が出てきているのに魔法使いがいて休憩時間に入った時にふと言ってしまったのだ
「魔法使いって現実にはいるのかな?」と

「ええ、現実世界の高校生の前に魔法使いが現れて好きな子とくっつかせるお話になっていたわね」

お茶を飲んでいた花恋先輩はゆっくりとこっちに近づいてくる

「現実世界に魔法使いがいたらなんて楽だろうな〜…って思っちゃってw」

「まぁ、魔法使いがいたらみんなが幸せになれるわよね…」

その時窓から夕焼けがさしこんできた
淡い橙色の光が花恋先輩のよく手入れされたサラサラとした髪に反射する

「…話変わるんですけど花恋先輩って髪の毛すごく綺麗ですよね…」

「あら、ありがとう。これには理由があってね…」
少し恥ずかしそうに微笑む花恋先輩

「理由!教えてください!」

食い気味にそういうと


「まずこれを見て」

そう言って花恋先輩が差し出したスマホを見ると

「え!?これ、花恋先輩!?」

そこに映っていたのは髪の毛がボサボサであらゆる方向に飛んでいる先輩の姿

「うふふ、これは高校一年生最初の私」

今の花恋先輩とは想像もつかないほどの姿にびっくりしてスマホと花恋先輩の髪を何回も見比べた

「私ね、髪の毛のケアとかかわいい服とかメイクに興味がなくてね、ずっとこんな感じだったの」

「だけどある日仲良かった1人の男子に言われたの。せっかく可愛いんだから髪の毛整えて見てよって」

花恋先輩は話を続ける
「その日の夜、頑張って髪の毛を乾かして、次の日ヘアアイロンで真っ直ぐにして…学校に行くとね?」

「その男の子が私の頭を撫でながら…可愛いじゃん、似合ってるよって言ってくれたの…」
そう言う花恋先輩はとても嬉しそうに笑ってて…
恥ずかしそうに笑っていた

「それから彼に褒められたくて…頭を撫でて欲しくて髪の毛のケアを始めたのよ…」

それから先輩は少し照れたように「みんなには内緒ね?」と言った後、パタパタと部室から出ていった

魔法使いは現実世界いない

けど花恋先輩をここまで可愛くしたその彼は花恋先輩にとっての魔法使い

きらびやかなドレスも美しいガラスの靴も好きな人の元に連れていってくれるかぼちゃの馬車もいらない

女の子を綺麗にしてくれるのは恋した男の子のたった一言の魔法


0時を過ぎても解けない魔法を
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