レイン。序章
お兄ちゃん!お兄ちゃん!

メルが俺を何度も呼んでいる。

俺がうっすらと目を開くと、涙で顔を濡らしたメルが、覗きこんでいた。

「ここは……」

薄暗い、狭いテントの中に、俺はいるようだった。

俺はシャツを脱がされて、うつ伏せに寝かされていた。

背中の傷には包帯が巻かれている。

左目におそるおそる手をやると、そこにもきちんと手当がされていた。

「気がついたかね」

男の声がした。

首をひねってそちらを向くと、髭面の男があぐらをかいて座っていた。

「あなたはあの時、先頭にいた……」

「思い出したかね。お前はあれから7日間も眠っていたのだ」

7日間……。俺は、それを聞いて目を閉じた。

「その間、この子を……」

男はふっ、と笑いながら言った。

「最初のうちは、泣いてばかりでな。飯も一切食べなかった。だが近ごろは少しずつ、ミルクを飲むようになっておる」

お前の意識が戻ったので、もう安心だな、と彼は続けた。

「ありがとうございました」

なんの、と男は言った。

「お前、名はなんという?私はサンドラだ。この一族の長を務めておる」

俺は、レイン、と名乗った。

サンドラは、左手に持っていた焼き物の瓶を掴み、ぐびりと飲むと、ひとつため息をついて、言った。

「ではレイン、いったい何があった?その子に訊いても、要領を得んのだ」
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