レイン。序章
サソリに食われてボロボロになった母さんを見て、俺は怒りに震えた。

「奴らは、母さんを……、冒涜した」

サンドラは無言だった。

俺はさらにしゃべり続けた。

「俺はあの日……まだ体調が良くなかった。普段なら、勝てた。あの程度の男どもなんて、俺の剣の前には……」

自分が何を言っているのかまったく分からなかった。

しかし、止まらなかった。

「俺があの時、剣を捨てていれば……あの男は母さんを殺さなかったかも」

「もうよせ、レイン」

サンドラが俺の言葉を遮った。

「自分を責めるな、レイン。お前は間違っていなかった。お前が戦うのを止めても、彼らはお前も妹も母親も殺していただろう。仕方なかったのだ。お前は精一杯のことをした。お前はわずか、十二歳ではないか……」

俺は、そのとき、父さんと母さんを失ってから初めて泣いた。

嗚咽が止まらなかった。

俺は叫んだ。

父さんを返せ。

母さんを返せ。

俺の左目を返せ。

あの幸せな暮らしを返せ。

俺たちの幸せを……
< 20 / 62 >

この作品をシェア

pagetop