レイン。序章
息が止まった。

瞬きも忘れてしまった。

押しのけられた拍子に、地面にばらまいてしまった硬貨を拾うこともできなかった。

俺は、馬鹿みたいに口を開けっ放しにして、その男を凝視した。

彼は低い声で商売男に言った。

「そろそろ、やるぞ」

穏やかだった商売男の顔に、いやらしい影がさした。

「またですか、兄貴。懲りないお人ですなあ」

そしてヒヒヒと笑った。

「次の獲物はでかい。かなりの収穫が期待できるぞ。お前も、下手な商売だけじゃ食っていけねえだろう」

「ってぇことは、あっしも混ぜてくれるんですか、兄貴」

「お前にゃあ、略奪品を売りさばくだけじゃなくて、もっと働いてもらわねえと、割りに合わねえんだよ」
< 28 / 62 >

この作品をシェア

pagetop