レイン。序章
俺は、我にかえって、頭巾を深く被りなおした。

幸い、彼らは俺のことは気に留めていないようだった。

俺は震える手で硬貨を拾い、商売男に渡した。

客の男が刺すような視線を送ってきているのが分かる。

「どうも」と言って、俺は麻袋をひとつ受け取り、駱駝の背に乗せた。

うつむいたままだと逆に怪しまれてしまう。

こういう輩は、妙に敏感だ。

俺はキッと顔を前に向けた。

そして二人のほうに向き直って、「では」と言った。

背筋を伸ばして、焦らず、ゆっくり歩いて、もう二人が俺を見つけられないくらいのところまで来ると、俺は小走りになった。

あいつだ。

あの時、母さんの背中にナイフを突き立てた。

あの盗賊の親玉だ。
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