レイン。序章
30分くらい歩いたら、息が上がってきた。

しばらくぶりだからだろう。

桶はまだ空っぽなのにと思うと、少し、不安になった。

だがもうすぐ着くころだ。

俺は、歩くあいだ、とりとめのないことを考えていた。

この桶に水をたくさん汲んで、俺はまた小さな革張りのテントに戻るだろう。

それから、母さんとメルと、遅めの朝食を取るだろう。

そのあとは、一日中、牛たちの世話をしたり、母さんを手伝ったり、メルと遊んでやったりしながら夜を迎えるだろう。

そうだ、そろそろ父さんが帰ってくる。

父さんは、俺たちが搾った牛の乳や、母さんの作ったチーズや、父さんが牛から採った革を持って、砂漠を越えて、市場へ売りに行っている。

代わりに、たくさんの穀物や、ワインや、珍しい石や、俺の欲しがっている短剣や、メルが気に入る綺麗な貝殻や、母さんによく似合う髪飾りを持って、彼は帰ってくるだろう。

そうやって、俺たち一家は暮らしてきた。

これからもそうやって暮らして行く。
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