レイン。序章
「お前は、母親はあの時死んだと思っていたのか?」

背中に嫌な汗が流れた。

「くっくっ。ようやく分かったようだな。俺はあのとき、急所を避けて刺したのだ」

男の目が、意地悪く細められた。

「気持ちいいもんだぜぇ?死にかけた女にブチ込むってのはよ。いい顔してたなあ、おい。詳しく聞きてえか?あ?」

男は蛇のように赤い舌で、上唇を撫でた。

「お前の母親は立派だったぜ。決して命乞いなどしなかった。最後まで反抗的で……」

「貴様ぁッ!」

ゴートが顔を真っ赤にして怒鳴った。

男はいたずらっぽく肩をすくめてにやにやしていた。

「てめぇよくもッ……」

ゴートが剣を振り上げようとした。

俺は左手でそれを制止して、彼に「決して手を出さないでくれ」とささやいた。

そして、目の前の憎い男に向き直った。
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