レイン。序章
ボキン、という鈍い音がして、男の右腕が身体から離れた。

鮮血が瞬く間に砂に染み込んで、赤黒い絨毯のようになった。

男は泡を吹きはじめた。

「さて、詳しく聞かせてくれるんだったな?母さんの最期を」

「レイン!もうよせ!」

ゴートが俺の肩を掴んで揺すった。

俺はほとんど殴るようにして彼の手を振り払った。

「もうじゅうぶんだろう!これ以上のことをして何になる!レイン……」

ゴートが俺の前に回り込み、両肩に手を置いて俺の目を覗き込んだ。

俺は彼から顔をそむけて下を見た。

男は痙攣を始めていた。

「邪魔をするなと言ったはずです」

俺はテントから、松明をともすのに使う油とマッチを持ってきた。

「危ないので離れていてください」

俺は男にまんべんなく油をまぶすと、マッチを摺り、ぽとりと落とした。
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