レイン。序章
俺は、状況を理解した。

俺は、松明を投げ捨てて、きびすを返した。

全力疾走する。

が、足がもつれて速く走れない。

背後から、邪悪な笑い声が追いかけてくる。

相手は3人。

しかも、砂漠に適した馬に乗っている。

すぐに追いつかれてしまうことは明らかだった。

遠くにぽつんと明かりが見える。

我が家だ。

ここで俺が殺されても、奴らはあの家も襲うだろう。

それだけは、それだけは。

避けなければ。



「メル!母さん!逃げるんだ!」

俺はテントに近づいたころ叫んだ。

母さんが革の隙間から顔を覗かせた。

彼女は一瞬で青ざめた。

「早く!メルを連れて」

俺の言葉は最後まで続かなかった。

背中を斬りつけられたためだ。

俺はその場に倒れこんだ。

男たちは俺には目もくれず、下品に笑いあいながら、テントの中に踏み込んだ。

女の悲鳴が上がった。

「こりゃあいい!上玉だぜえ」

子分と思われる男が声高に言った。

親玉らしい男が答えた。

「売り物にゃあならねえよ。こんな年増女。だが、器量はいい」

「娘のほうも、育ちゃあ美しくなりますぜ」

やめろ!俺は叫んだ。

震える手を砂について、なんとか起き上がる。

腰に携えた短剣を抜く。

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