ツキミチカフェにようこそ
 それで結局痴話喧嘩だ。杏は「わたしを信じられないの?」と聞いてきた。彼女のふっくらとした柔らかな頬は、さっきまでの幸せそうな紅ではなくて今はボクへの怒りによる赤で染まってる。

 「信じられるわけないだろ、あんな幸せそうな顔見せられたらさ。慶太がいいなら乗り換えりゃいいだろ」
 そう言った瞬間に、杏はボクの足をぎゅっと踏みつけた。
「痛って!!」
 思わずしゃがみ込んだボクを置いて、杏は走り去った。そっちがその気なら上等だ。いいよいいよ、別れてやるよ!

 ……そう思ったのも束の間、ボクはすぐに反省させられる羽目になった。慶太がボクに声をかけてきたからだ。

 正直、慶太と話したくなかった。顔も見たくなかったんだ。
 幼少期から憧れの従兄は、背が高くて顔もいい。くっきりとした二重に太い眉。案外まつ毛は長くて、顔から受ける印象はまるでダビデ像で、男のボクでもその造形美にうっとりしてしまうほどなんだ。頭も良ければ運動神経も良く、人当たりも良くてみんなから慕われている。

 かたやボクはと言えば、自慢できるのは長年水泳で鍛えた肩幅くらい。目はタレ目だし少し離れてるし、慶太より背も低い。
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