ツキミチカフェにようこそ
 先程の喧嘩を思い出していたら、また怒りがぶり返してきた。そして気づいたら曲がるべきところで曲がらず、違うところで曲がってしまったようで、行けども行けどもツキミチカフェは出てこない。

 今日はツイてない。鼻から多めに息をふんっ、と吐き出し、端に避けて道を確認しようと再びスマートホンを取り出したときに、目の前に人が現れた。

 うわ……美男子だ。
 最初に惹きつけられたのは瞳だ。淡い茶色のような、透明感のある瞳がびっしりと生えたまつ毛に彩られている。長い髪はブリーチしているのか明るめの茶色で、毛先が女の子が巻いたときみたいにくるん、とカールしていてそれが彼にはとても似合っている。
 顔は小さく、背はボクと同じくらい。全体のバランスがいい、足が長い。袖まで捲った白いシャツにブルーデニムが眩しい。シンプルな服装なのにカッコいいのは、この人自身がカッコいいからなのか。

 と、その美男子が少し首を傾げ「もしかして、面接予定の佐島善行(さじまよしゆき)くん?」と、聞いてきた。
「はい。ツキミチカフェの方ですか」
「そうです。遅いから道に迷ってるかと思って探しにきました。俺、ホール担当の高田雅日(たかだみやび)です、よろしく」
「わざわざすみません、うっかり道に迷っちゃって」
「うち、ちょっとわかりにくいんですよね」

 高田さんは左手の腕時計を確認すると、ボクに顔を向けた。
「面接の予定だったんですが、三時からグループの予約が入っちゃって。早速で悪いんですが時給ちゃんと出すので手伝ってもらえませんか」
「あ、はい、わかりました」
「人手が足りなくて困ってたんで良かった。じゃあ急ぎましょう」

 高田さんはこっちです、と道沿いの生垣の隙間に体を潜らせた。え……? いや、マズいだろ。民家だぞ?
 高田さんは振り返ると、早く、と急かした。
「ここはオーナーの家なんで大丈夫です。近道なんでここから行きましょう」
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