君がいた世界は輝いていた。
私は笑わない。
この残酷な世界で笑うなんて。
そう思っていた。
これは、凪くんーーー君に会うまでの話。
「はよ。」
「お、おはよう」
私は現実を受け入れられない。
だって、友達ができたんだから。
生きる意味を与えてくれた友達。
「なんだよ、浮かない顔して。」
「だ、だって、友達できた、から」
「はっ?友達できたことねぇの?」
「う、うん」
「まじかっ」
「でもっ、今、凪くんがいるもんっ」
あれ?
今、私笑った?
「やっと笑ったな。」
凪くんの前だけ、笑える。
素の私でいられる。
「ありがとうっ」
「な、何がっ?」
あれ?照れてる?
「ふふっ。」
これからも君の隣にいさせてね。
私はずっと隣りにいるつもりだから。
何があっても。
「なんだよ」
「でもさ、なんで私のことと止めたの?」
気になるんだよな。
やっぱり、先生に言われたのかな?
「い、いや、なんていうか。俺にも色々あるんだよっ。」
なんか間があったような。
言えないこともあるよね。
「そんな萌花はどうなんだよ。死のうとしてただろっ。」
あぁ、話そらされちゃった。
凪くんになら話せる。
誰にも話してこなかった私のこと。
「私ね、親から虐待されてて、ほら」
そう言って、足にあるアザを見せた。
「こんな感じなんだけど…それが小さな頃から毎日続いて、学校に行けば少しは親たちから離れられて安心して過ごせるって期待した自分がいた。でも、家と同じで。なんでか分からないけどっ、う、っひぃつ」
「ごめん、勢いのあまり話せって言っちゃってな。悪い。
でも、泣くな。」
そういって凪くんは抱きしめてくれた。
男の子の大きな体にすっぽり収まる。
でも、この状況にびっくりしたけど。
不器用な人だって思ったけどこんなことできるんだ。
またありがとうって思った。
「あ、ありが、とうっ。」
「よしよし」
そのまま何時間経ったんだろう。
家に帰りたくないな。
だって、ご飯を与えてくれるわけでもないのに帰るなんて。
まるで、自分から殴ってと言っているようなものだから。
「ご、ごめんね。もう暗いしっ。またねっ」
辺りは薄暗くなってきた。
「どーすんだよ。家に帰りたくねぇんだろ?」
「だってしょうがないじゃん。帰らないと…」
「俺、いいとこ知ってるけど?」
「?」
いいとこ?
「ついて来い」
そう言われ、5分ほど歩いた。
そこは、大きなお家。
「ここ、どこ?」
「ん、俺んち」
えっ、凪くんの家?
家とは大違いでとても大きいし、なんかホテルみたい。
「さ、入って」
「え、いいの?」
「だから連れてきたんだろ?」
「じゃ、じゃあお、お邪魔しますっ」
本当に家にはどうしても帰りたくなかった。
「あらー、萌花ちゃん。いらっしゃい」
はじめましてのはずだけど…
なんで私の名前を知っているの?
「はじめましてですよね?」
「あー、まだ言ってないの?凪はねっーーー」
「言うな」
そう言って凪くんに遮られた。
「まぁいいわ。お部屋いっぱい余っているの。だから毎日好きなふうに使っていいわ。」
え?
ここに暮らすみたいな言い方だったよね?
「今日から私達の家族よ。」
へ?
「嫌か?母さんには色々と言っておいたから。勝手に言ったりしてごめんだけど」
「私、いいの?でも迷惑じゃっ」
「なーに気にしてるのよっ。萌花ちゃんはね、凪のーーー」
「母さん」
???
初めてこんなに歓迎された。
また涙があるれてくる。
「あら、凪に何されたの?」
「いえ、ちがっ、」
「私、誰かに歓迎されたの初めてでっ。私を受け入れてくれた人凪くんたちだったから嬉しくって。」
「これから凪のことよろしくね。」
「はいっ。親たちには一応メールしとくので。絶対、心配とかしないと思うんですけど。」
「よーしっ。今日の夕飯は、ハンバーグを作るわよっ。」
「やったぁー」
「凪、部屋に案内してあげて。」
「ほい」
私は階段を上がり、どんどん奥へ突き進む。
「ここ。隣が俺の部屋ね」
「ありがとう。なんか夢みたい」
「ふはっ。なんだよっ」
笑われたっ。
うっ。
でも、嬉しい。
こんな夢みたいな日は幸せだった。

でも、それはほんの1週間くらいの話。
『ピーンポーン』
「萌花いるんでしょー?」
え?
階段からも見える玄関を見ると、凪くんのママと私の親たち。
なんでわかったんだろう。
私は怖くなった。
でも、凪くんたちに余計に迷惑がかかっちゃう。
私は恐る恐る階段を降りる。
「なんでわかったの?」
「ほら、いる。GPSつけたんだよ。生意気なお前の行動を見るために。」
「っ」
すると、凪くんも降りてきた。
「あの、帰ってくれます?ここ俺んちなんで、押し掛けられると困るんですけど?」
「勝手にウチの娘をさらっておいて」
「なんなんですか?虐待してるくせに娘呼ばわりですか?通報しましょうか?」
「そっちだって、誘拐して。通報する?」
どうしよう。
争いが始まっちゃった。
これも私のせい。
私がなんとかしなくちゃ。
「お母さん、お父さん。私が言うのもあれだけど、帰って。私が学校で何されてるか分かる?家でも暴力振るわれるのに学校でもだよ?ふたりに殴られたり蹴られたりするよりはマシだけど、痛いの。心がっ。私には居場所がなかった。だから死のうとしたのっ。私は必要とされてない、存在しないほうがいいんだって。そのほうがみんな嬉しいし、私だって楽になれる。でも、凪くんと凪くんママが助けてくれたのっ。何も知らないふたりが勝手に娘とか言わないでっ」
あぁ、言い切った。
これで帰ってくれるかな?
「生意気め」
そう言ってお父さんは私の腕を強くつかみ、車へと引きずる。
「いやだ、帰らないのっ」
おもちゃを買ってもらえなかった子供みたい。
でも、状況は違う。
結局、車に乗せられ、家に向かった。
凪くんと凪くんママが何か叫んでいたけど。
それに、凪くんが追いかけてくれた。
でも、車がどんどんスピードを出して途中で凪くんの姿は見えなくなった。
どうしよう。
私、殺されるのかな。
「降りろっ。早く」
「っ」
もう一発殴られた。
家に入るとゴミだらけ。
タバコとお酒の匂いが充満している。
「散々言ってくれたな。」
そう言ってパンチとキックのパレードが続いた。
私の顔は紫になっていた。
「うっ、ゔ」
苦しいよ。
『ガチャ』
突然ドアの音が聞こえた。
「萌花っ」
来てくれて、
ありがとう。


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