きっと100年先も残る恋
お互い何も予定のない平日、雄介はキャップを被って、サングラスをかけて部屋を出る。

お揃いのあの日のマウンテンパーカー。

普通に雄介が手を繋いでくる。

「だめだよ」
「いいよ、べつに」

そんな態度の雄介は、もう芸能界なんて未練なさそうだ。
本当に、本当に、大学卒業のタイミングで芸能界から消える気でいる。

久しぶりに真ん中で手と手が揺れる。
のんびりと、マイペースに。

雄介は相変わらず歩くのが遅い。
そんな雄介を見上げた。

「なんで、俺と付き合ってくれたの」

突然私の顔を見て雄介が言う。

「え」

私はただの一目惚れだった。
憧れだったし、初めての恋に胸が高鳴り続けただけだ。

「雄介の話し方が好きだと思った」

そう答えると「ふうん」と言った。

「じゃあさ、なんで別れないでいてくれたの」

こんな質問ドキリとする。

「別れるなんて考えたこともなかったよ、私」
「まじで?」

なぜか歩くのをやめてまで、雄介が私を見た。

「俺じゃなかったら、普通にデートできてたんだよ?」
「うん、でもそれの有り難みを教えてくれたのは雄介だからだよ」

こうやってただ並んで歩くだけで、今幸せなのは、特別なことだから。

「つまんない思いさせてごめんね」

雄介が小さく言う。

私は静かに首を横に振った。

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