きっと100年先も残る恋
朝、荷物をまとめた雄介は「ありがとう」と言った。

たぶん、出会わなければ良かったなんて心の底から思ってない。

「うん、ありがとう」

そう答えると、雄介は笑顔になった。

「じゃあ」

またね、とは続かない。
もう次は私たちにはないんだ。

「元気で」

雄介の穏やかな低い声が霞む。
私も微笑むしかない。

手を振った。

多分、今までで一番長い時間手を振った。
雄介がドアノブに手をかけているのに、全然この部屋を出て行こうとしなかったから。

思わず笑ってしまう。
笑いながら、目尻が滲む。

「出て行って欲しくないよ」

つい口をついて出た。

「欲しくないけど、頑張ってほしい」

そう言うと、堪えていた涙が目尻から溢れた。

ドアにかけられた雄介の手が離れる。

そして優しいハグを交わす。
優しくて強いハグだ。

大好きな人。

フワッと体が離れると、私の顔を見ることもなくドアが潔く開けられた。
雄介は振り返ることなく、この部屋を出て行った。

ドアがバタンと閉まる。

その瞬間から、私は半分になった。
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