きっと100年先も残る恋
私たちは、行く先も決めず、適当に歩き始める。

一歩踏み出したタイミングで、高松雄介は、何も言わずに手を繋いできた。

ああ、私は多分、これから先、この人のタイミングに心地良く巻き込まれるんだろうな、と思う。

リード、という言葉とも違う。

彼は自分がやりたいようにやるのが、上手いんだと思う。
相手を嫌な気持ちにさせることなく、自然体でいながら人を巻き込む。

繋がれた手を見る。
手も好きだ。
手首から指先にかけて伸びる真っ直ぐな骨たちが、男の人って感じがする。

腕を登るように視線を上げる。
斜め後ろから見る背中も、髪型も。

こういうのを一目惚れと言うんだと知った。
性格なんて分からないけど、恋に落ちる時はあっけない。

誰とでもデートして、手を繋いでるのかもしれない。

一晩過ごした部屋に、女の人も一緒にいたかもしれない。

それでも、今こうして私に時間を割いてくれている。
それだけでいい。

「本当にごめん」と突然振り向いてきた。

「なに」
「あの・・・」

言葉を考えるように胴体を右に左にゆらゆら回す。

「美術館に行きたいんだよね」

なんだ、そんなこと、と拍子抜けした。

「行っていい?」
「行く行く」

私はそう頷く。

彼は芸術論の課題で、展示のレポートを明日提出しないといけないことを説明してきた。

理由なんてどうでも良くて、彼の行きたいところならどこでも行ってみたいと思った。

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