夜が明けていく。
幼い頃の記憶の大部分が、伯父の家の書斎で本を読んでいた。

伯父の赤木辰石(あかぎたついし)は、小説家をしている。

伯父の書いた小説は、映画やドラマにもなるほどの人気作家だ。

本棚にはありとあらゆるジャンルの本がたくさん並んでいて、私にとっては宝箱のような場所だった。

私が小説家を目指したきっかけは、きっとあの部屋でたくさんの本に触れて過ごしてきたからだろう。

それなのに、“あの事”があってからは本に触れるのが怖くなって、伯父の家に足を踏み入れることができなくなっていた。

伯父の家に来るのは、かなり久しぶりだな・・・・・・

家の前に着いたものの、足がすくんでしまい門の前で暫く動けずにいた。

自分の足でここまで来ることができたのに。

ただ目の前の家に入るだけなのに、私の足は言うことを聞いてくれなかった。

伯父の家で生活するということは、執筆する伯父の姿を目の当たりにする。

以前まで、私が当たり前のようにして来たことを。

“あの事”がフラッシュバックする。

動悸が激しくなり、視界が霞んでいく。

せっかく前向きになれたのに・・・・・・

やっぱり私にはまだ無理だったのかな。

「・・・・・・ちゃん、・・・・・・ちゃん、華ちゃん!?」

私の意識が遠退く瞬間、覚えのある顔が見えた気がした。

どうしてあなたがここに・・・・・・
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