夜が明けていく。
突然、黄島さんと一緒に買い物に行くことになり、私はいつものようにマスクをして帽子を深く被った。

夜ならこれで安心して外出できたけれど、今は昼間だし大丈夫だろうか。

私は、勢いで決断してしまったことを少し後悔していた。

「華ちゃん、なんか凄い完全防備だね」

「ああ、はい。えっと、日焼けしたくなくて・・・・・・」

「そっか、じゃあ行こうか!」

上手く誤魔化せただろうか。

咄嗟に出た嘘の理由。

いつどこで、私の顔を知っている人に遭遇するか分からない。

SNSで晒されてしまった以上、多くの人が私の顔を知ってしまった。

“赤木辰臣の娘”

“赤木麗華の娘”

そのどこにも“小説家”とは書かれなかった。

文学新人賞を取ったのは私なのに、私自身ではなく、両親の名前だけが独り歩きしてしまったのだ。

「華ちゃん、大丈夫?」

つい“あの事”を考えていると、黄島さんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「えっ?あっ、すみません。ちょっとボーッとしちゃって」

「その辺のカフェにでも入って、ちょっと休憩しようか?」

「あっ、いえ、大丈夫ですよ」

「大丈夫じゃないよ!今もボーッとしてたし、この前も倒れちゃったじゃん!俺も喉乾いちゃったし、ねっ?」

私は慌てて断ったものの、黄島さんの勢いに負けてしまったのだった。

少しずつでも前を向くと決めたのだから、怖がってばかりじゃいられない。

せっかく決断して外に出ることが出来たのだから、私はこのまま黄島さんの勢いに任せてみることにした。
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