夜が明けていく。
近くにあったカフェに入ると、夕方ということもあり店内は高校生や大学生ぐらいの若い人たちで混んでいた。

テーブル席がちょうど1組だけ空いていたのでそこに座り、黄島さんはカフェオレ、私はレモンティーを注文した。

「いや〜さすがにもう暑いよね。ちょっと買い物に出ただけで、めっちゃ汗かいちゃった!」

黄島さんはカフェオレが届くまで我慢できなかったようで、Tシャツの裾をパタパタさせながらテーブル上に置かれた水を一気に飲み干した。

「華ちゃんさ〜。それ、暑くないの?」

黄島さんの指差す“それ”とは、私の帽子のことだった。

カフェに入ると決めた時点で、帽子を取る覚悟はしていたはずなのに、店内の人の多さで私は怖気付いてしまっていた。

あれだけ週刊誌やSNSで晒されたこの顔、店内の誰か1人でも覚えているかもしれない。

お洒落なカフェの店内、帽子を深々と被ったままだと逆に目立っているのも自覚している。

それでも、帽子を取って素顔を晒すのが怖かった。

黄島さんにも言われたし、さすがにもう帽子を取らないと怪しまれるかな・・・・・・。

私はギュッと目を瞑り、ゆっくりと帽子を取った。

・・・・・・とりあえず大丈夫かな。

周囲の目がこちらに向いておらず、私は心底ホッとした。

「お待たせしました〜」

その声に私の体はビクッと強張った。

注文していたカフェオレとレモンティーを運んできた店員のその声でさえ、今の私には恐怖でしかない。

私はなるべく顔が見えないように俯き、この時間が早く終わることを願いながらレモンティーを飲み干した。
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