ひと雫ふた葉 ーprimroseー
1ly.毒花の気配
月が静かに水面を照らす夜。その雲行きは怪しく、今にも月を覆い隠してしまいそうだ。
その日、いつも以上に寝つきが悪かった俺は布団にいることを諦め、縁側へ出ることにした。無駄に広い庭に設えられた池で健気に泳ぐ鯉を見つめ、小さくため息を吐く。
……胸騒ぎがする。
そんな俺と呼応するように木々が風に揺れ、大きく音を立てた。
次第に風は強まっていく。吹き飛ばされそうな突風が吹いたあと、俺の中から声がした。
『四囲に災いを纏いし生きた魂を感じる』
災いを纏いし生きた魂……?
その声はもう答えてくれることはなかったが、俺はいまだ胸騒ぎを押さえられずにいた────。