ひと雫ふた葉 ーprimroseー
4ly.繋がりゆく樹葉
1es.絡まり合う刺雨
「起きんか、阿呆」
怒気を含んだ低く、静かな声。俺はすぐそれが爺のものであることに気がつき、重たい瞼を押し上げた。
────戻った、のか……。
思考が定まらない中、目だけを動かしてその姿を探すと案の定、眉間に濃い皺を寄せ、腕組みをしながらあぐらをかいている爺が俺を見下ろしていた。
爺は俺と目が合うや否や、汚物でも見るような視線を投げかけながら話し出す。
「……お前はまた、浮遊霊などと戯れておったそうだが」
だいたいどんな言葉が飛び出てくるかなんてわかってたのに、俺は〝浮遊霊〟という一言が許せず、飛び起きて爺に掴みかかった。
「ち、が……! あの……子はっ……」
〝あの子は浮遊霊なんかじゃない〟。
そう主張したかったのにも関わらず、負担をかけすぎた体はもう、まともに言うことを聞いてくれなかった。
激しく出る咳が言葉を押し込み、話すことすらままならなくなった俺を見て、爺は呆れたように言う。
「ほら見ろ。あれだけやめておけと言ったのに、言いつけを守らずほいほいと体を抜け出すからそうなる」
それにも言い返せず、苦しくなる胸をおさえながら睨むのが精いっぱいな俺を横目に、爺は「お前の外出を禁ずる」と吐き捨てて部屋を出て行った。
────爺の言いつけなんか、守ってる場合じゃない。
鉛のように重い体を引きずり起こし、殴られているような頭痛に耐えながら気力だけで立ち上がる。