ひと雫ふた葉 ーprimroseー
爺や父さん、母さんの泣き顔、黒い服で参列する人々、静かに降っていた雨……。
あの時の全てがフラッシュバックし、痛みや倦怠感なんか忘れてその人物に掴みかかる。
「秀兄……!?」
男はその一言に少し悲しそうな顔をし、俺の肩を掴んで落ち着かせるように話し出した。
「……坊。兄貴は……宗秀はもう、ここにいーひん。……葬式にも参加しはったやろ?」
「秀兄! 秀兄やんな!? 帰って来たんか……っ! 俺、俺……!!」
本当に帰って来たと、来てくれたんだと思った。だって目の前には秀兄と瓜二つの人物がいたんだから。
もちろん、〝瓜二つ〟なだけで全くの別人なのだが、それでもまだ、秀兄だと思い込んで必死に話している俺に正気を取り戻そうと、男は俺の肩を強く掴み、半ば乱暴に揺らしながら声を大きくする。
「坊……! 坊! 兄貴は死んだんや!!」
その強い言葉でやっと我に返り改めて男の顔を見てみると、秀兄にはなかった、左顎のほくろが見えた。
「か、ず……兄……?」
一気に現実へ連れ戻される感覚と同時にふっと体から力が抜け、膝から崩れ落ちる。
そうか。そうだよ、秀兄はもう……。
「そうや。……お前のせいで、兄貴は死んだ」