ひと雫ふた葉 ーprimroseー
俺が答えられずにいると宗兄は鼻で笑い、
「過労死や」
そう一言だけ呟いた。
秀兄が……過労死……? 俺のために働いたせいで……。その時、俺はどうしてた?
確かに宗兄が言う通り、能天気に日々を過ごしてたんだろう。
いつもそこにいるのが当たり前だった。居なくなるなんて、会えなくなるなんて、少しも思わなかったから。
「……ごめん」
その一言しか、宗兄に返す言葉が見つからなかった。実の兄弟である宗兄の方が心の傷が深いのは確かだ。
約9年間もの間、実の兄が仕事として俺の面倒を見ていた。死因がその過労だとすれば、俺のせいだと責め立てられても仕方がないように思えてしまう。
考えれば考えるほど頭痛がし、目の前が霞んだ。
「……今はまともに話せへんやろ。しばらく寝とき」
さっきまでの態度とは裏腹に、宗兄は優しく俺の体を寝かせ布団をかけた。
聞きたいことは山ほどある。それなのに今は様々な出来事がいっぺんに起こり過ぎて、それを整理する間もなく、限界だとでも言わんばかりの睡魔が押し寄せた。