ひと雫ふた葉 ーprimroseー
待ち合わせ場所は間違いがないよう、互いに知っている大きな公園の前に決め、オレは時間の5分前にはそこで小娘を待っていた。
に、してもここの公園名、〝ささくれカブトムシ〟はよくわからへんわ……。
目の前にでかでかと掲げられた看板を見て目を細める。
確かに一発で覚えられるし間違うことあらへんかもしれんけど……。敷地が大きいにも関わらず、そのどこにも〝カブトムシ〟も〝ささくれ〟も見当たらへん。
適当につけたとしか思われへんわ……。
人のいない公園に1人、傘に当たる雨音を聞きながら小娘を待っていたが、時間を過ぎて10分待っても、アイツは現れへんかった。
あの性格や。口うるさいくせに、自分が遅れて来るなんてことあらへんやろ。……しゃあなしに、迎え行ったるか。
確か前に聞いた話やと、アイツの家は与雅澄神社やったはずや。与雅澄神社はあちこちに点在してる。けど、この地域やったらあそこやろな。
公園を出て高層ビルの立ち並ぶ通りへ向かう。すぐにビルの森は終わりを迎え、住宅街に辿り着く。そこからはもう神社の鰹木が見え始めていた。
歩きながら小娘の姿を捜すも、どこにもその姿はない。
「……ここか」
寺におった時から柴樹のいる日凪神社と与雅澄神社の関係性は、嫌になるほど聞かされてきたけど、実際に来たんは初めてやった。
────こんな訪れ方やけど一応清めてから入ろう。
そう思て手水舎に近づいた時、裏の方から言い争うような声が聞こえ、思わず振り返った。
「ちゃんとお役目は果たせ、と何度言わせる」
「もうほんといちいちうるさいってのクソジジイ!!」
「何を言うか……! 神様の前だぞ!」
……神様以前に、客の前やぞ。まぁ、その客がオレ1人でよかったな。
雨の日だからか、ほとんど貸し切り状態の境内を見渡しながら口喧嘩に耳を貸していると、視界の端に映る入口の鳥居の方を、見覚えのある影が走り去って行った。
「あ……! おい、瑮花!!」