ひと雫ふた葉 ーprimroseー
「あまり雑に扱わないでもらえるかな」
突然隣から声が聞こえるもんだから驚いて声の主を見上げれば、そこには黒縁眼鏡に少し長めの髪、重たい前髪をした、いかにも学校とかで委員長をやってそうな男の人が立っていた。
「あの、あなたは……?」
「アンタは……」
徳兄も不思議そうに尋ねるものの、言い終わらないうちに追いついた瑮花が手を膝につきながら説明した。
「紅苑……麗司さん。あたしが呼んだの」
紅苑……つまり、この人が雨香麗のお兄さん? 言われてみれば口元が似ている気がする。
複雑な感情を胸に抱いていると、麗司さんは瑮花の言葉に微笑みながら頷いて、ポケットから鍵を取り出した。
「一応、この学園は所有物みたいなものだからね。はい、どうぞ」
そう言いながら麗司さんはいとも簡単に扉を開け放つ。でも徳兄は怪訝そうな顔をして口を開いた。
「なんで瑮花が紅苑さんのこと呼べたん」
そんな徳兄を横目に、瑮花は得意げな笑みを浮かべながら話し出す。
「あの日の帰り際、連絡先交換したんだ」
「ほぉ……オレの知らん間に……2人だけで」
へぇ、とかふぅん、とか言ってる徳兄の表情を見るに、全く納得がいっていないようだった。