ひと雫ふた葉 ーprimroseー
でもそいつが理事長室にいるって……。
見たくない。信じたくない。受け入れたくない。
そんな思いが交差する中、徳兄はゆっくりと扉を押し開けた。
「う、そ……」
目の前にあの嫌な塊が蹲る。でもその面影は初めて出会った時の雨香麗を思い起こさせた。
まさか……そんな、まさか。
────嘘だと、言ってくれ。
『紫、樹……?』
そう思いたかった。嘘だと、なにかの間違いだと。それなのにそれは俺に気がついて顔を上げる。
「なんで……雨香麗……」
「雨香麗!? こいつが……」
そばにいた徳兄も愕然とした声を上げるも、俺はその場に脱力してしまう。
雨香麗は体のほとんどをやつらに蝕まれ、今はかろうじてその自我を保っているような状態に見えた。黒い中にぼんやりと映る顔は悲しみに染まっている。
『ごめ……なさ……わたし、いろんな、人を……』
「違う……君じゃない! 悪いのは、君じゃ……」
そう思うのは嘘じゃないし、強く伝えたい。それなのに体は恐怖で震え上がってしまっていた。
『わたし、待ってた……紫樹が、来て、くれるの。でも気がついたら、いろんな感情がぐるぐるしてて……』