ひと雫ふた葉 ーprimroseー
3es.果てぬ想い、空に糸雨
「……無謀だ」
全てを話してから少しの沈黙。それを最初に破ったのは父さんだった。
「離脱してその霊魂の元へ行こうなど……無謀にもほどがある」
「坊のことを信じてないわけちゃいますけど、こればっかりは雅久さんに同意します」
「……あたしも。一歩間違えば死んじゃうんだよ?」
────わかる。わかってるさ。わかってて俺はその道を行こうとしてる。だって……。
「大丈夫、朱紗は約束してくれた。〝最大限の加護を以て俺を守る〟って」
だから俺が死ぬようなことはない。そのことを丁寧に伝えた。こんな俺の心配をしてくれる皆を、ちゃんと安心させられるように。
「では、柴樹よ」
「……はい」
これまで黙って腕を組んでいた爺が口を開いた。
「約束しろ。もう、これを機に二度と離脱はせん、と」
「約束します。神の名において」
その場に片足をつき深々と礼をすれば頭に手がのせられた。はっとして顔を上げればもう手は離れ、爺の背中だけが俺を見下ろしている。
……嘘、みたいだ。
爺にこうやって頭を撫でられたのなんてどれくらいぶりだろう。胸に宿る温かさを噛み締め、立ち上がる。
「皆、準備を。柴樹の離脱援助はこの祭殿で行う」
爺のその一言でその場に再び慌ただしさが訪れる。俺も着替えるため一度自室へと戻ることにした。