ひと雫ふた葉 ーprimroseー
維衣を脱ぎ、パーカーをわし掴んで動きやすいスウェットに身を包んだ。
そして祭壇へと戻るともうそこには布団が敷かれ、その布団を守るように、魔除けの祷巫が貼られた簡易的な天蓋が置かれていた。
「……本格的だね」
思わずそう呟くと、そばにいた徳兄が笑いながら「そんだけお前が大切にされてるってことやろ」と言った。その言葉になんだか胸の奥が暖かくなるような、むずがゆくなるような感覚がする。
爺に撫でられた頭を再び触ってみて、ひとりで照れくさくなっていると、急に名を呼ばれた。
「紫樹!」
肩を震わせながらもすぐ爺の元へ駆けると布団へ横になるよう、促される。いつものように布団の中へ入るけど……。
「なんか、こうやって眠るのすごく緊張するね」
「うるさい。はよ寝ぇ」
徳兄に軽く小突かれ、苦笑しながら布団に潜り込む。周りに皆の気配を感じながら目を閉じ、いつものように離脱を始める。
と、言っても人の前で離脱するのなんて初めてだからほんと、緊張するんだけど。
ふわり、と体が軽くなるのを合図に思いっきり布団を突き放す。すると体は宙を舞い────。
「ほんまに抜けたんか……!」
俺は体を残し、皆の輪の外へ降り立った。徳兄と同じく、俺の姿が見えている爺や父さん、母さん、沙与さんも驚きに満ちた顔をしている。
……ただひとり、瑮花だけはきょろきょろと辺りを見渡していた。
「ど、どこ? 柴樹どこにいるの?」
「はぁ……あんたって子は。そこよ。ちゃんと見送りな」
沙与さんに軽く小突かれながらも瑮花は見えない俺を視界に映し、ぎこちなく言う。
「い、いってらっしゃい……?」
「行ってくる。……あとはよろしくね」
「……任しとき」
力強く頷いた徳兄を見て俺も頷き返し、皆に背を向けて大地を蹴る。
……待ってて、雨香麗。絶対、救ってみせるから。あと少し、耐えて────。