ひと雫ふた葉 ーprimroseー
「戻ら、なきゃ」
わたしは愛されてた。友達はいなくなっちゃったけど、まだわたしを愛し、待ってくれてる人がいる。
パパ、お兄ちゃん、柴樹……。
それぞれの顔を思い出しながら強くそう思った。
『違う』
突如、背後から声が響く。どこかで感じたことのある嫌な気配を振り向くと、そこはもうわたしの部屋ではなく、黒く薄暗い空間の中だった。
その真ん中にドロっとした人型の〝何か〟が佇む。
『あんたは愛されてない』
それはゆっくりと顔を上げながらそう言った。
「あな、たは……」
その顔は顔と見て取れないはずなのに、なぜか自分に酷似していると思ってしまう。不気味に光る赤い瞳に射抜かれ、目を逸らすことができない。
『あんたはすごく利用しやすいもんね。……きっと、今の奴らもすぐに裏切る』
「そんな……そんなことない! パパやお兄ちゃんがわたしのこと心配してくれてるのもわかった。柴樹だって『独りじゃない』って言ってくれた!!」
いまさらそんな言葉で揺らいだりなんて……!
その目を睨み、強く抗議する。けどそいつは声色を変えず続けて言った。
『あれだけ盛大に裏切られておいて? そっか、あんたはまた繰り返すんだ』
「繰り返すって、何を……」
言い淀むとそいつは