ひと雫ふた葉 ーprimroseー
「雨香麗……なのか?」
ふと絞り出された麗司さんの声に顔を上げる。
────まさか。
「雨香麗、なんだよな。こんなことで何してる? まさか、お前死んだ、なんて言わないよな。嘘だよな!?」
「紅苑さ……まさか、あれ見えはって……」
「は? 見える? 雨香麗が死んだみたいな言い草はよしてくれ!!」
ものすごい剣幕でそう捲し立てる麗司さんに押され、徳兄は押し黙ってしまう。
そうか。さっき死霊がなだれ込んでその霊障を受けたから、麗司さんは急に雨香麗のことが見えるようになったんだ。て、ことは……──。
「そ、宗徳……あたしも見えるんだけど」
「は!?」
徳兄の袖を引き、複雑な顔をしながら瑮花が言う。やっぱり、瑮花も見えるようになっている。
でも全員霊障を受けたなら、どこかしら魂に傷がついてしまっているはず。あまりこの場に長くはいられない。
「雨香麗、帰ろう。お前はここにいるべきじゃないだろ?」
そう言って麗司さんが雨香麗に手を伸ばす。しかし雨香麗から邪気がほとばしり、麗司さんを吹き飛ばした。ものすごい音とともに麗司さんは壁に激突し、苦しそうに呻く。
瑮花と徳兄がすぐ駆け寄ったものの、麗司さんはその手を振りほどいて立ち上がり、なおも雨香麗へ歩み寄る。
「雨香麗……ごめんな、怒ってるよな。あとでいっぱい話、聞いてやるから……帰ろう……? な?」
『……うるさい』
頭にその声が響いたかと思えば麗司さんはさきほどよりも強く飛ばされ、あろうことか窓から落ちてしまった。
「麗司さん!!!」