ひと雫ふた葉 ーprimroseー
3es.翠雨に秀でる花雫
肥大化した霊魂の中で柴樹の手が力なく垂れる。
嘘や……。嘘や!!!
「お前……! 柴樹を返せ!!」
何もできないんがもどかしい。オレには柴樹みたいに神様もおらんし、兄貴みたいに周りの邪魔なヤツら、除霊する力もあらへん。
「お前自分がなにしとんのか見てみぃ!! 兄貴も突き落として、家もめちゃくちゃにして、柴樹も……こんなん、自己中や!!」
オレにできるんは、おもっきし怒鳴り散らすことくらいや。柴樹の言った〝呼びかける〟に相当するかはわからへん。
でも、これくらいしかできひんねやったら、とことんやったる!
ひしひしと感じるコイツの感情。
悲しい、憎い、つらい、怖い、死にたい。
いろいろ思うところはあるかも知れへん。けど、たぶんほとんどコイツの本心ちゃう。
「さっきから死にたいだの殺したいだの、うっさいわ!」
反応を見せなかった雨香麗が少し動き、もの言いたげな目を向けた。
もう少し。もう少し感情を揺らせば……!
「自分の体見てみ。お前が感じてるもん、そこにまとわりついたヤツらのもんや。いい加減目ぇ覚まして自分と向き合え!!」
強くそう言った時、わずかながら雨香麗の表情がぶれ、肥大した死霊どもに乱れができた。
────今や!