ひと雫ふた葉 ーprimroseー
〝役に立ちたくても力がない〟。
その言葉がオレに重くのしかかる。オレは、今まさに〝力があるのに諦めた〟ヤツや。
オレにも、力はあるんか……? こないなヤツ、鎮める力が……。
自分の手を見て思い悩んだ時、耳元で懐かしい音が聞こえた。オレの錫杖の音とは違う、もっと軽く鈴の転がるような音。
────兄貴……?
それは確かに兄貴の愛用していた錫杖の音だった。
長年聞いてたんや。間違えるはずない。すぐに辺りを見渡すも、気配は何も感じられひん。
……それもそうや。
兄貴はとっくに成仏しよるし、戻って来るはずない。でもどこかにあったかいものを感じて、オレは立ち上がった。
「……しゃあなしにやってみるけど、成功するかはわからへんぞ」
「宗徳……」
さすがに瑮花の顔を見ることはできひんかった。でも、なんか嬉しそうにオレの名を呼ぶその声に、少し安心する。
「柴樹。印の間、オレは無防備になってまうさかいに、その間朱紗様の加護で邪魔されんよう、頼むで」
「う、うん、わかった!」
大丈夫。きっと大丈夫なはずや。落ち着いて。周りの死霊を祓い、雨香麗を鎮める。それだけに集中しろ。
左手に錫杖を持ち、数ある祷巫の中でもオレの専門外な祷巫を思い出し、決して間違えることのないよう唱えていく。
「奏朱善魂 無把萩々」
印を組み、同時に錫杖を地面と垂直に動かして足元に陣を張る。
「今命壱泰 千万薫証」
いける。もう少しや。あと一行……!