ひと雫ふた葉 ーprimroseー
すんでのところで目の前に一際でかい死霊が飛び出す。一瞬、びびったけどオレはそれでも祷巫を唱え続けた。
死霊は必死になって喰らいつこうとするが、オレの肩に触れる紫樹のおかげで、淡い光がそれをはじき返す。
「謹乞拙者 伴霊幸。この御霊、天つより華佐吏宮ノ真琴、朱紗萩吏凰ノ御琴の名のもとに禊ぎ祓い給え」
印を組み錫杖を元の位置に戻して3回床をつく。
祷巫も間違ってない……はず。印も、陣も、間違わずにできたはずや。
込められるだけの祈りを込めて、最後のひとつきを鳴らした。
雨香麗を包む死霊達は鼓膜を突き破りそうな勢いで叫び、大きく膨らむ。その負の爆風に押し返されそうになった時、錫杖を握るオレの左手に、もうひとつの体温を感じた。
『よう、頑張ったな』
思わず振り返るとそこには穏やかな顔をして笑う兄貴がいた。でもそれは散り散りになる死霊に隠れてすぐ見えなくなってまう。
気のせい……?
それにしてはえらくはっきりと聞こえ、見えた兄貴に胸んとこが一気にあったかくなる。
どちらにせよ、オレは負けへん。諦めへんぞ……!
その風を押し返すように力強く前を向く。すると眩しい光が雨香麗を包み込んでいった。