花音（かのん）

６日目の朝、山下幸一は、家から一番近いバスの駅で、バスが来るのを待っていると、
松本夏樹と、竹田圭吾が両脇から、肩を組んで来た。
「いろいろとあるんだって？」
「おはよう。」
「おはよう、じゃねえよ。誰だよ、昨日一緒にいた子。」
「昨日？」
「そう、女の子と一緒に楽しそうにテスト勉強？オレらほっといて。」
「あー！昨日の、夏樹と圭吾だったの！？」
「気づいてたのかよ。」
圭吾が聞いた。
「違うよ。佐々木さんが、なんか視線を感じるとか、なんとか言ってたんだよ。」
「佐々木さん？」
「へー佐々木さんねえ。」
圭吾と、夏樹がニヤッと笑った。
「何その笑い！たまたま今回一緒に勉強してるんだよ。近づくなよ！！」
幸一が必死に２人に言いさがる。
「佐々木さんねえ。」
「分かってるよ。」
夏樹と圭吾が、それぞれに返事した。
幸一、夏樹、圭吾は、いつも学校にギリギリにつくバスに乗っている。
ふざけながら、のんびり歩いて来るので、チャイムが鳴る頃学校に到着できるかどうかだった。
今日は、チャイムが鳴る前に、学校へついた。
夏樹が、言った。
「佐々木さんってどの子？」
幸一の教室の前で、ひそひそと圭吾が聞いた。
「教えない！」
幸一が言う。
その間にも、すれ違う人達が「よぉ」と幸一に挨拶しながら通っていく。
幸一も丁寧に「うっす」と挨拶を返していく。
「教えなきゃ、自分で聞いちゃうもん。」
夏樹が言う。
「ダメ！！」
幸一が大きな声を出した。
「じゃあ教えろよ。」
圭吾が言った。
「分かったよ。たぶん、もう来てるはずだけど・・・。」
幸一が教室をのぞいた。
「んー？あれ？でも、席は、あの人がたくさんいる所が佐々木さんの席だよ。」
「見えないじゃん。」
「ちぇ。」
チャイムが鳴った。
夏樹も、圭吾も、しぶしぶ自分の教室に向かった。
幸一が教室に入った所で、詩穂が翔吾に教科書を返すのが目にはいった。
「おい、座れ。」
担任のカネちゃんが幸一を押すように教室に入った。