花音(かのん)
6日目の放課後、詩穂は、図書室にいた。
「本返します。」
詩穂が本を図書室のカウンターに置いた。
少し年配のおばさんが、
「はいはい。」
と、事務所のような所から出てきた。
手には、1冊の大きめな本を持っている。
「この間、言ってた本入ったよ。」
「ホント!?」
詩穂は両手を出して、本を受け取るしぐさをした。
「ダーメ。テストが終わってから。だから、今日は早く帰んなさい。」
「ぶー。そういうのいけないんだよ。」
「そういうの?」
「見せる気が無いのに、本持ってやって来るの。」
詩穂はほほをふくらませて言った。
「ちょっとだけ見せてあげるから、テストがんばるのよ。」
「よろしい。」
偉そうに詩穂は両手を出した。
「何がよろしいよ。」
少し年配のおばさんが詩穂に渡しかけた本をひっこめる。
「あーんごめんなさい。ちょっとだけ見せて。」
「ちょっとだけね。」
少し年配のおばさんは、本を手渡した。
大きめの本は日本画の画集だった。
本をカウンターに置き、詩穂は1枚ずつ本をめくる。
「佐々木さんて、日本画書くの?」
「うんん、見るのは、日本画が好き。」
ふと、詩穂はカウンター横に置いてある時計に目がいった。
「いけない!帰ります。テスト終わったら貸してくださいね。」
詩穂は、図書館を出た。
教室まで一直線に走った。

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