巻き込まれ召喚された身でうっかり王子様に蹴りを入れたら、溺愛花嫁として迎えられることになりました【WEB版】
——その翌日。
「えっ、呼び出しですかっ」
「そうだ。君がやらかした昨日の粗相については聞いている。謝罪を行なったが、受け取ってはもらえなかった。それどころか、朝食に君を招きたいと。……わかっていると思うが、余計なことは言うんじゃないぞ。君は彼女たちの世話だけしていればいいのだ」
「……はい」
自室で身支度を整え、城の使用人の朝礼に出たらこれです。
昨日もこっぴどく叱られることはなく、むしろ「よくも来賓の股間を蹴りやがったな」とピリピリした空気に苛まれましたが……よもや……。
執事長に連れられ、赴いたのは来賓の泊まる一室です。
そう、竜人族の皆様が泊まるお部屋です。
いつもなら彼女たちのお世話をする時間ですが、私がこうしてこちらに呼び出された、ということはエルフ族はやはり竜人族が怖いのでしょう。
魔法を使える人間と竜人。
私にはどちらが強いのかは分かりませんが、少なくともエルフは“お客様”を優先したとも考えられますし……そんなことを考えても、私にはあんまり関係ないと思いますし、まあいいでしょう。
むしろ、早々に藍子殿下へ謝罪できる機会に恵まれたことを喜びましょう、うん。
「失礼いたします。ご所望にございました娘、リセを連れてまいりました」
「入れ」
そのお部屋は、大きな丸いテーブルが窓のそばに設置してありました。
それを囲うように四人の男性が朝食を摂っています。
エルフ族の文化から、部下と同じテーブルで食べるのは考えられないこと……。
『国際会議』——私は手伝いに駆り出されるのが今年で二度目ですが、この世界の他種族の文化文明に触れるのはこれが初めてかもしれません。
だからハッと驚いたのです。
和やかな朝食の風景。
王族とその護衛であっても、まるで家族のように……。
「リセ」
「はっ! あ、お、おはようございます! 藍子殿下、昨日はとんだご無礼をいたしました。どうかお許しください!」
執事長の冷たい声に、自分がしなければならないことを思い出す。
頭を下げて、許しを乞わねばならない。
必要ならば命も差し出す。
……私は殺されても仕方のない身。
問題は『彼女たち』が『私というおもちゃ』を、他国の王族にすんなり殺させるのですか。
エルフ族としても『彼女たちのおもちゃ』がなくなるのは、望ましくはないでしょう。
だって私のお仕事は主に彼女たちのお世話……ええ、ご機嫌取りなのです。
彼女たちは、同じ世界から来た無能な私をいじめて遊ぶのが大好き。
「…………」
思い出すのは辛いようなことも、毎日たくさんされます。
ひどい言葉で傷つけられることも。
それでも彼女たちの境遇は可哀想。
だから仕方ないですね。
「お、あ、ぅっ、え、え、ええと」
「?」
「殿下、しっかり」
「ファイト」
「まずは挨拶からだぜ」
「そ、そうか! よ、よし」
頭を下げたまま相手の反応を待っていると、なにやら意味をなさないどもり声。
それでも一応「頭をあげろ」と言われていないので、謝罪状態を維持。
しかし次に聞こえてきたのは部下たちの激励の言葉。
今どうなってるんでしょうか?
「お、面をあげよ」
「……」
そう言われて、ようやく顔をあげます。
藍子殿下は、私の真正面に座っていた。
目がかち合うと、突然顔を真っ赤にして窓の外へ飛び出して…………えっ!?
「「「殿下ーーー!?」」」
「ええええええっ!?」
ここ四階ーーーーーーー!
と、思ったら、藍子様は窓の外……空中で浮かんでおられました。
背中からは翼を出して、バッサバッサと飛んでいます。
ひょ、ひょえぇえぇっ、竜人族って翼を出して飛べるんですか〜!
「愛い! 無理だ! 直視ができない!」
「殿下! まだ顔を合わせただけでしょう! 昨日の積極性はどこへ行ったんですか!」
「だ、だって、改めて見たらリセが可愛すぎる……! 昨日の俺はどうしてあんな大胆なことができたのだろうか……! 信じられん、あんな細い手を掴むなど……はぁぁぁっ」
「いかん、完全に拗らせた」
「我ら竜人族のめんどくさいところが完全に出たねぇ。どうするのこれ、甲霞」
「…………」
え、え、え?
なにが起きているのですか?
完全に拗らせた、とは?
竜人族のめんどくさいところ、とは?
説明が欲しくて恐る恐る執事長を見上げると、ものすごく嫌そうに、そして困ったように顔を背けられました。
いや、助けてくださいよぉー!
「申し訳ありません、リセ様」
「様!? ……い、いえ、あの、私は一介のメイドにすぎませんのでそのような……!」
「いえ、藍子様が完全に拗らせましたので、もはやあなた以外の女性をあてがうことは不可能」
「? !? ?」
なんなの!? 怖いです!
部下の三人の男性は椅子から立ち上がると、私の前にやってきて膝を折、跪かれました!?
えええええええっ!?
「え!」
「改めまして、私は藍子殿下の側近で甲霞と申します」
「同じく側近の一人、采と申します」
「同じく、育多という!」
「あ、は、初めまして、リセと申します」
丁重に自己紹介を受けたので、私も頭を下げて自己紹介をしました。
しかし相手の方が身分は上なのに、跪かれているので目線は下。
大変心苦しいというか、どうしてよいやらというか。