蒼春
「ちょっと待ってて。」

そう言われると、少しの間その場が静かになる。

あぁ、知らない人なのに迷惑かけちゃった…。どうしよう、絶対困ってるよね…。ホントに申し訳ないなぁ。

また胸が苦しくなる。


ーパサッ

私の体に何かがかけられた。ふわっとシトラスの優しい香りがした。

暖かい…。

そしてその人は私のおでこに手を当てて

「うん、熱はなさそうだね…。」

と呟いている。

少し考え込んだのだろうか。しばらくしてから彼は言った。

「ちょっとごめんね。」

するとゆっくり私の体が持ち上がった。

…さっきよりも、シトラスの香りを近くで強く感じた。


そうだ!お礼、言わなきゃ…!

最後の力を振り絞る。

『あ、りが、とう…。』

そこで私の意識はブツリと途切れた。

< 10 / 129 >

この作品をシェア

pagetop