蒼春
『どうしてここに…』

「全然戻ってこないから心配で探してた。」

『…すみません。』

「いや、それよりこっちの方が大変でしょ?」

そう言って私の足に絆創膏を貼る。

『先輩、それ…。』

「うん。乃蒼ちゃんが無理して歩いてるのには気付いてた。」

『じゃあなんで…』

先輩は、私の考えを見透かしたかのように話す。

「迷惑、かけると思ったんでしょ?」

目をしっかり見てこんなことを言う先輩を騙せるわけもなく、認めざるを得なかった。

「やっぱりね。…4月に俺が言ったこと覚えてる?」

『えっと…』

「乃蒼ちゃんが最初にマネージャーの仕事した日だよ。」

4ヶ月も前のことなんてあまり覚えていない。しかも入学早々、先輩と話した記憶も…

……あ。

そういえば、助けてもらったことがあった。

『…”困った時は頼る“ですか?』

「そう。頼って?」

『はい…。じゃあ』

先輩はキョトンとした顔でこちらを見る。

『あ、歩けないのでおんぶしてください…』

言っちゃったぁぁ!もう、ほんとに恥ずかしい!

自分でも顔がだんだん熱を持ちはじめたのを感じた。暑い…。

先輩は少し顔を逸らした後、私のことを持ち上げた。

『えっ!先輩、これおんぶじゃない…』

「浴衣なのにおんぶは無理でしょ?消去法だよ。」

そう言ってお姫様抱っこされる。

「これから行きたいところあるんだけど、いい?」

『あ、はい…。』

「ありがとう、しっかり捕まっててね。」



時間を確認すると、花火が上がるまであと10分だった。
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