蒼春
先輩だろうか、同じ学年では見たことのない人が私の事を探していた。

『乃蒼、行かない方が…』

楓にそう言われるも、クラスの男子が言ってしまう。

「鈴木ー、呼ばれてるぞー。」

『う、うん。今行きます!』

『乃蒼っ!』

名前を呼ばれて、振り返ると2人が心配そうな目で見てくる。

『大丈夫!』

そう言い残して呼ばれた方へ向かって足を進める。


『あなたが鈴木乃蒼?』

『はい、そうですけど…。』

初対面でいきなり名前を呼び捨てで呼ばれることに違和感しかなかったけれど、感情を押し殺して話す。

『私に何か用ですか?』

『あなた、蒼生と付き合ってるらしいじゃない。』

『…』

『ねぇ、みんなの蒼生なんだけど。何してんの?』

『みんなの蒼生って誰が決めたんですか?』

つい失礼な態度に苛立ってしまった。するとその女の先輩は、何にも答えず去ってしまった。

…なにがしたかったんだろう。


教室に戻ると、楓と雪ちゃんが駆け寄ってくる。

『大丈夫だった?!』

『うん。何もされなかったよ。』

すると、ほっとしたのか胸を撫で下ろす2人。


しかし、世の中はそんな甘くなかった。

これはまだ、悲劇の始まりを知らせるに過ぎなかったのだ。
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