婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 ハッシュの指摘は腹が立つほどに的確だ。
 なににも執着したくない。そう言いながらも、やはりレナートにも大切なものはある。ハッシュやマイトの代わりはいないし、オディーリアも……もはや手放すことなど考えられなくなっていた。

「それと王位とは話が別だ」

 レナートは無理やり話を終わらせたが、ハッシュもそれ以上しつこく説得しようとはしてこなかった。
 彼は知っているからだ。レナートが執着を嫌う理由を。

「クリストフがなぁ……」

 レナートは思わずぼやいた。彼が信頼のおける人物なら、レナートが悩むこともないしハッシュだって納得したはずなのだ。
 腹違いとはいえ血のつながった兄ではあるが、クリストフは信用できない男だった。頭の切れる男なのだが、利己的で軽薄なところがあった。王の器かと問われると、疑問が残る人物だ。

 だが、国は王がひとりで治めるものではない。自分は彼に足りない部分を補う役割を担えばいいのではないか。レナートはそんなふうに考えていた。だが、どこかでそれが自分自身への言い訳であることもわかっていた。

「面倒だな……」

 政治的なことより、戦場で馬を走らせているほうがよほど気楽だ。
 レナートは憂鬱な気持ちを抱えたまま、帰途についた。無性にオディーリアの顔が見たくなった。
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