婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 元々、彼は別に自分を気に入ったから連れ帰ってきたわけではないのだ。ひとりは妻を迎えたという事実が欲しくて、その相手として都合がよかっただけのことだ。
 あのときと今と、彼の心情に変化があったのか……考えてみても、よくわからなかった。 

「なにしてるんだ?」

 背中に届いた声に、彼女はびくりと身体を震わせた。ぱっと振り返ると、そこにはレナートが立っていた。

「い、いえ! 別になにも……」
「鏡なんか見て、珍しいな」

 彼は優しく目を細めたが、オディーリアにはその顔がなんだか浮かないように見えた。

「お疲れですか? 王宮に行かれてたんですよね」
「そうだ。カシュガルとの終戦の報告にな」

 レナートは上着を脱ぐと、ベッドにどかりと座り込んだ。そして、手招きでオディーリアを呼び寄せる。
 オディーリアはそろそろと近づいていくと、ちょこんと彼の隣に腰かけた。
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