婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「母は父の数多いる側室のひとりだったが……王宮にあがることは彼女が望んだことではなかった」
「嫌だったということですか?」

 オディーリアが問うと、彼はうなずいた。

「婚約者がいたらしいんだ。母の望みはその彼と結婚して幸せに暮らすことであって、その他大勢の女になることではなかった」

 側室制度はナルエフ特有のもので、オディーリアの故国ロンバルにはなかったものだ。だから想像するしかないが、多くの女性と寵を競い合うような生活はなかなかに疲れそうだ。いくら名誉だと言われても、本心では嫌だと思う女性がいるのも不思議ではない。

「とはいえ、母は名家の出身だったから、側室としては十分すぎるほどに厚遇された。父もよく目をかけ、すぐに俺が産まれた。それで母は期待してしまったんだ。夢見ていた幸せな家族を、父と築けるんじゃないかと……」
「夢は叶わなかったのですか?」

 レナートはそっと目を伏せた。その仕草でオディーリアにも答えはわかった。
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