婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「父にとって妃とは、臣下であり、自身の大事な武器なんだ。平等に大切には扱うが、誰かひとりを特別に愛することは決してない」

 王としては正しい生き方なのだろう。女に溺れて道を失うような君主に比べればずっと立派だ。けれど、妻の立場だったら……寂しさと虚しさで苦しくなるかも知れない。恋だと愛だのに疎いオディーリアでも、その苦しみはなんとなくわかる。

「母が精神のバランスを崩していたことは、幼かった俺でも感じ取れた。やけに上機嫌だと思えば、次の瞬間にはヒステリックにわめき出したり……」

 そんな彼女の耳に、あるニュースが飛び込んできたんだそうだ。

「母の婚約者だった男は母が王宮にあがった数年後に別の女性と結婚した。その妻が、急な病で亡くなったんだ。ふたりの間には子はいない」
「それで、レナートのお母様は……」

 オディーリアは続きを促した。

「やはり彼こそが自分の運命の相手だったと確信したらしい。自分の結婚も彼の結婚も間違いだったと。彼の結婚は妻の死をもって白紙に戻った。あとは自分だけだと」

 彼女は自分の結婚も白紙に戻そうとした。レナートの首に手をかけることで……。
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