婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「衝動的な犯行だったから、母はすぐに捕らえられた。王子殺害未遂の罪でね。そして、刑の確定を待たずに牢の中で狂い死んだ」

 実の母親に殺されかけた。その事実を淡々と語るレナートに、オディーリアはなんと言葉をかけたらよいのかわからなかった。

「俺は母の執着心が怖くてたまらなかった。幸せな結婚なんて、形のないものを追い求めて破滅へと向かっていく女が恐ろしかった」

 オディーリアはレナートの頭に手を伸ばす。ぎこちない手つきで彼の頭を撫でた。オディーリアのなかにこれまで知らなかった感情が次々と湧き上がってくる。

(この人が、愛おしい。いつも笑っていてほしい。幸せにしてあげたい……)

「不思議です。誰かを愛おしいだなんて、初めて思いました。そんな感情は私には無縁だと思っていたのに」

 オディーリアがそう言うと、レナートはふっと笑いながら彼女の身体を強く引き寄せた。レナートのたくましい胸のなかでオディーリアの体温はぐっと上昇した。

(変なの。ソワソワして落ち着かないのに、ずっとここにいたいような気もする。レナートといると、自分が自分でなくなるみたいだ)
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